和式トイレのすべて

日本の伝統的な「しゃがみ式」トイレを徹底解説

和式トイレとは

和式トイレ(わしきトイレ)は、日本で古くから使われてきた、便器に足をかけしゃがみ込む姿勢で用を足す形式の便器です。洋式トイレが主流となった現代でも、学校や公園、一部の公共施設などで見ることができます。その構造や使用法は、洋式トイレとは大きく異なります。

1. 歴史と普及

古来の排泄文化と近代化

  • 古来の形態: 奈良時代にはすでに排泄物を溜めるための溝や穴を設けた施設(川屋・厠)が存在していました。
  • 汲み取り式: 近世以降、排泄物を肥料として再利用する「汲み取り式」が広く普及し、この形式が和式トイレの原型となりました。
  • 水洗化: 明治時代以降、西洋の衛生概念が導入され、昭和時代に入ると下水道の整備に伴い、水洗式の和式トイレが普及しました。
  • 洋式化の波: 1970年代以降、生活様式の欧米化や高齢者への配慮などから洋式トイレの普及が加速し、現在では新設のトイレのほとんどが洋式となっています。

2. 基本構造と主な種類

主要な構造要素

  • 便器本体: 陶器製で、床に埋め込むように設置される部分。
  • 金隠し(きんかくし): 便器の手前側にある盛り上がった部分。用を足す際、排泄物が外に飛び散るのを防ぐ役割があります。
  • 踏込(ふみこみ): 便器の両脇にある、足を置いてしゃがむためのスペース。滑りにくいように加工されていることが多いです。
  • たまり: 排泄物を受け止める水が溜まっている部分。

設置方法による分類

  • 段差式: 踏込部分が床面より一段高くなっているタイプ。便器のくぼみが深くとりやすく、水はねや臭気対策に優れています。
  • 平面式: 踏込と床面が同じ高さになっているタイプ。バリアフリーには適していますが、水はね対策がやや難しいとされます。

簡易構造図 (平面式イメージ)

[ 手前 ] [ 金隠し ] <-- しゃがむ際に顔を向ける方向 [ ] [ たまり ] <-- 排泄物を受ける部分 [ ] [ 踏込 ] [ 踏込 ] <-- 足を置く場所 [ ] [ 奥側 ] <-- 背を向ける方向

3. 正しい使い方とマナー

使用の基本手順

  1. 向きの確認: 基本的に、便器の盛り上がった部分(金隠し)に顔を向ける向き(奥側を背にする)で立ちます。これは、用を足す位置が定まりやすく、排泄物の飛び散りを防ぐためです。
  2. しゃがむ: 踏込部分に足を置き、便器を跨ぐようにして深くしゃがみ込みます。和式では膝を深く曲げ、かかとを床につけた状態が理想的な姿勢とされます。
  3. 適切な位置: 排泄物が便器の「たまり」の中央に落ちるよう、体の位置を調整します。
  4. 流す: 用を足し終わったら、設置されているレバーやボタンで水を流します。流れ切るまで確認するのがマナーです。

ワンポイント: 洋式トイレのように便器に背を向ける(金隠しを背にする)と、位置が定まらず、便器の外や金隠し周辺を汚してしまう可能性が高くなるため注意が必要です。

4. 和式トイレの利点

🧘

自然な排泄姿勢

深くしゃがむ姿勢は、直腸と肛門の角度(直腸肛門角)が緩み、排泄がスムーズになるという医学的な利点があります。

衛生的

体(特に皮膚)が便器に触れることがないため、洋式トイレと比較して接触による衛生上の懸念が少ないとされています。

💪

足腰の筋力維持

しゃがむ動作は、日常的に足腰や体幹の筋肉を使うため、健康維持や軽い運動になると言えます。

5. 現代と和式トイレ

洋式化の波と課題

  • 急速な減少: 高齢者や身体の不自由な方への負担が大きいことから、公共施設や学校での洋式化が急速に進んでいます。
  • 観光客の課題: 訪日外国人にとって、和式トイレの使い方が分からず戸惑うケースが多く、観光地のトイレでは案内表示の工夫が求められています。
  • 災害時の強み: 水洗機能が停止しても、汲み取り式や簡易トイレとして活用しやすい構造のため、災害時に強いという側面もあります。
  • リフォームの増加: 既存の和式トイレを、しゃがみ込む姿勢が不要な洋式トイレへリフォームする家庭や施設が増加傾向にあります。